手紙を書きたくなる本「往復書簡」
たくさんあった辛い出来事を
このひと言でなかったことにするのは、なしです。
0をかけるってこういうことなのかな。
人間は、自分自身の1回の生涯を送ることしかできない。
(生まれ変わりとかあるかもしれないけど、知らないし。)
でも、さまざまな媒体を通して、
他の人間の生涯を擬似的に一部的に体験することはできる。
それは人としての価値観を広げる、
すばらしい行為だと思う。
小説もその媒体のひとつであり、
「往復書簡」は、小説という媒体のなかで、
さらに手紙という媒体だけを通して作られたストーリー。
主人公たちの手紙のやり取りだけで、
話は、進んでいく。
それぞれが過去の出来事にトラウマを抱え、
お互いの手紙を通して、それぞれの思い違いが
わかり、そのトラウマが解消されていく。
手紙のやりとりだけで作品になるのかなんて、
思ったけど、十分な作品になっている。
それがこの作品のすごいところなのかもしれない。
3つの短編のなかで、
個人的には、最後のストーリー、「15年後の補習」がよかった。
「■×0=0」は、■の部分がどんなに大きくても「0(ゼロ)」になる。
過去の記憶にも、ゼロをかける方法があればいい。
そうすれば過去のいやな記憶もゼロにできるのに。
でも、現実的にそんなことはできない。
これは、個人的な考えだけど、
過去の記憶に、かけることができるゼロは、
「受け入れること」
それだけなんじゃないかと思う。
アマゾンのレビューで、多くの人が、
手紙を書きたくなった と書いていたが、
まさにそのとおりだった。
(まぁ、思っただけで本当に書くとことはないけど…)
「告白」やその後に出ていた、
ミステリー系の作品とは、まったく違う作品ではあるけれど、
読後感は非常にいい作品。